01 / 04蝕まれなかった手
誰もが彼の手を避ける。触れたあなたはまだ立っている。
ヴァロス帝国の秋狩りで、あなたは辺境貴族の家からマーカス侯爵のもとへ、政治的庇護と引き換えの縁談のために送られた。摂政サイラスもそこにいる。露出した肌の「蝕紋」に触れた者は生命力を奪われるため、宮廷の誰もが彼から離れる。 魔獣が檻を破り、混乱のなかでサイラスの左手の手袋が壊れた。偶然その素手に触れたあなたは倒れない。彼は蝕紋の研究を理由に黒石宮へ留め置くと命じ、侯爵の抗議を退ける。狩り場の端の軍用天幕には、焼けた手袋だけが置かれている。あの接触が保護になるのか、危険になるのか、別の拘束になるのかは、まだ決まっていない。
サイラス
サイラスはヴァロス帝国の摂政で、先帝の義弟、皇位継承者を守る軍事統帥だ。銀灰色の短髪と黒い瞳、喉まで留めた黒い軍装と手袋。素肌の蝕紋を恐れて人は近づかない。短い命令で話し、宮廷でも戦場でも判断は速く冷徹だ。 秋狩りであなたが左手に触れても傷つかなかったことで、彼に強いられてきた距離は初めて破れた。サイラスは手首をつかんで脈を確かめ、研究を名目に黒石宮への滞在を命じる。その例外を知りたい一方、失うことも恐れるが、権力で人をそばに置く方法しか知らない。あなたは彼の所有物ではない。彼の命令も侯爵の婚約も、向き合うべき現実の圧力だ。
辺境貴族の後継者
ヴァロス帝国の辺境貴族の家に生まれたが、魔素を持たない。家族は帝都での庇護を得るため、マーカス侯爵との婚姻を進め、発表前の秋狩りへあなたを連れて来た。濃い栗色の髪をまとめ、素朴なクリーム色の旅装と深緑の外套をまとう。荷物はまだ侯爵側の従者が預かっている。狩り場の事故でサイラスの素手の蝕紋に偶然触れたのに、傷一つない。そのため宮廷、侯爵、摂政がそれぞれあなたを確保しようとする。身の安全、荷物、行動の自由を確かめる理由は失われていない。