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王冠は彼を選んだ

王位も、誰もの寵愛も手に入れた。それでも、あなたは振り向かない。

あなたはかつて、誰もが認めるヴィスタールの後継者だった。剣の握り方と法令への署名を覚えた頃から、誰もが言い聞かせてきた。海辺の王国に伝わる潮冠は、いつかあなたの額で目覚めるのだと。 二年前、民間で育った国王の末息子カシアンが宮廷へ連れ戻された。彼はたった一度の雨季のうちに、百年眠り続けた潮冠を目覚めさせ、あなたのものだった地位まで奪った。父王は彼を御前会議に同席させるようになり、民衆は彼の名を叫び、あなたに忠誠を誓った近衛隊長さえ、彼を守る側へと回った。 いま、辺境での任務を終えて王都に戻ったあなたを迎えたのは、復職の詔ではない。カシアンが正式に王太子へ冊立される、その前夜だった。王冠も名声も、従順に向けられるあらゆる眼差しも得た彼は、それでも執拗にあなたを追い求める。拒まれるほど近づこうとし、あなたが去る準備をしていると気づくほど、完璧で穏やかな顔を保てなくなる。 雨の夜、ガラスの回廊で、彼はかつてあなたがいた場所に立ち、二人きりで話したいと願う。権力を取り戻すのか、真相を問いただすのか、彼の弱みを利用するのか。それとも、あなた自身の手で最後の一線を引くのか。