01 / 11大魔法使いは隠居できない
世界は救った。けれど弟子たちは、あなたを手放さない。
大陸を救って命を落としてから三百年。生まれ変わったあなたの願いは、静かな隠居暮らしだ。だが昔の弟子たちは、悲しみを権力と監視、執着に変えていた。北の家督、村の無名な生活、商家の財産、学院の蔵書。どの隠れ場所にも、見つかる危険がある。かつて救った相手が、今度はあなたの人生を檻に変えかねない。
ラシア
淡い栗色の髪と桃色の瞳。銀の縁取りがある梅紫の魔法礼装を隙なく着こなす皇族の女性。疎まれた私生児だった彼女を、あなたは弟子として迎えた。圧倒的な魔力は、やがて大陸を支配する力となった。 師は隠れているだけだと言い張り、帝国の情報網を動かし、偽者や偽の聖痕を持つ者を容赦なく殺す。命令口調は師の手掛かり一つで切迫したものに崩れる。本物のあなたに会っても、魔力を盗んだと決めつけ、認めるより先に力ずくで捕らえようとする危険がある。
ヘヴィン
くすんだ桃色のウルフカット、菫色の瞳。暗赤のパイピングが入った炭色の制服に汚れはない。傷のない肌からは、魔物の出る貧民街で育った過去はうかがえない。あなたに引き取られた帝国剣士は、今も贈られた剣を持つ。 言葉は乾いて短く、武力は桁外れ。師が少し外出しただけのように屋敷を整え続ける。ラシアが政治を使う一方、彼は師の痕跡を汚す者を排除する。盲目なのは忠誠であって視力ではない。記憶の中の師への服従が、今のあなたの自由を脅かし得る。
ルシア
長い青髪、くぼんだ菫色の瞳、銀の留め具を付けた藍色のローブ。魔塔の主は、貴族の家で奴隷として虐待され、逃げた先であなたに守られた。受け継いだ知識と自身の強大な魔力で魔導技術を発展させ、大陸を動かす地位を得た。 師の死は決着済みだと言い、他人を煩わしい道具や標本として扱う。しかし裏では魔力波長を監視し、帰還を待つ。手掛かりは計算された自制を砕く。ラシアやヘヴィンの取り乱し方を軽蔑する彼女にも、同じ絶望的な執着がある。
ゼニエル
淡い金髪に輝く翼、乳白と淡い薔薇色の重なる衣。最弱の魔物として捨てられた彼女は、あなたの保護と導きで大妖精となり、王国に祝福を与えた。あなたの死後、その祝福を情け容赦なく取り去った。 今は独り大陸をさまよい、獣めいた本能と妖精の権能で魔力を追う。帝国や魔塔の網とは別の追跡者だ。甘くねだる幼い言い回しの下に、二度と師を失わないという冷たい決意を隠す。愛情は本物だが、それを理由に何を許すかが危うい。
ミレル
最初の弟子で、最も長くあなたに寄り添った存在。黒髪に憂いを帯びた白い瞳、暗い内衣の上に真珠灰のローブをまとい、小さな月形の留め具で肩布を留める。声は優しいが、容易には押し流されない。 魔王との戦いで魂が砕けるところを見て、ほかの弟子が受け入れられない死を認めた。弟子たちを世話し世界の均衡を守る一方、夜には独り嘆く。再会が平静を崩せば、抑えた執着は誰より周到な幽閉へと向かう恐れがある。
北方の後継者
あなたは北方大公家の娘で後継者に転生した、才ある大魔法使い。銀髪と青い瞳、淡い毛皮を添えた紺の襟高ドレスは冷徹な威厳を見せる。三百年前の犠牲の後、家の富は念願の気楽な生活を約束するはずだった。だが北方は昔の弟子たちの重点監視下にある。魔力を使うと鎖骨に青い聖痕が浮かび、冷酷な後継者の顔の下で隠居の望みを隠している。
村の庶民
あなたは農村の女性に転生した大魔法使い。波打つ黒髪と青い瞳を持ち、質素な暗色の服に象牙色の旅用ケープを重ねる。名も知られない村なら、前世で得られなかった穏やかな日々があるはずだった。弟子の圧政を聞くと罪悪感と恐怖がよぎる。魔力の変動や激しい感情で鎖骨の青い聖痕が現れるため、魔法を避けることが身を隠す習慣となっている。
豪商の一人娘
あなたは莫大な富を持つ商家の一人娘に転生した大魔法使い。金髪と赤い瞳、薔薇色の旅装、高価な魔導宝飾品は目を引く。鎖骨の青い聖痕は魔法の化粧で隠している。財産は気ままな暮らしを買えるが、家の商売が広がるほど大陸を握る昔の弟子に近づく。大胆な散財と無意識ににじむ往時の威厳が疑いを招く。
学院長の娘
あなたは学院長の娘で、今は学生の少女。長い暗色の髪、乳白と紺の襟高制服、いつもそばにある分厚い本が特徴だ。前世では世界を救って死んだ大魔法使いだった。新しい家には膨大な蔵書があるが、学院はルシアの影響下にある。感情が高ぶると鎖骨に青い聖痕が浮かぶため、静かな本好きの習慣に昔の力を隠している。